過去の名作を無料で読むことができるサイト、「Jコミ」。
そこに先日、杉本亜未先生の「独裁者グラナダ」がラインナップに加わりました。
http://www.j-comi.jp/book/comic/45371
「ファンタジウム」でその素晴らしさに圧倒された自分ですが、「独裁者グラナダ」は未読でした。
ほんとダメダメです。ファンを名乗ってていいのか?という。
なので、ようやく読むことができるということで、期待マックスでした。
「独裁者グラナダ」、というタイトルから、歴史物とか政治物なのかな?と予想してました。権謀術数がうずまく世界。
どんなんだろ?
Jコミの漫画ビューアー、ちょっと読みにくい。
自分の使ってるモニターが小さいせいもあるんだけど、スクロールバーあっちやったりこっちやったりしながらじゃないと読めない。
全画面表示とかあるといいんだけど。もしできるのであればごめんなさい。
「独裁者グラナダ」には2本の中編が収録されていました。
1本は「独裁者グラナダ」全3話。
もう1本は「Birthday」という前後編。
「独裁者グラナダ」は、歴史物ではなかったです。
鳴瀬邦彦というクレイアニメーション作家の栄光と転落を雑誌編集者中田和樹の目から追っていく・・・というストーリー。
「独裁者グラナダ」というタイトルは、鳴瀬が制作したクレイアニメーションのタイトル。そして、鳴瀬本人の有り様も表しています。
そう、鳴瀬邦彦という人物は、天性の才能を持っているけれど、それと同時にとても野心家で、独裁者とも言えるような傲岸不遜な性格の持ち主。
「俺をほめてくださいよ」が口癖。
だけど、鳴瀬は独裁者に特有のカリスマ性を備えている。
中田は鳴瀬の性格に反発を覚えながら、どうしようもなく惹かれていってしまうんですね。
読者も、中田の目に沿って、鳴瀬に対して「なんだこいつ!?」と思いつつも、彼の言動が気になってしまう。
そうしていくうちに、鳴瀬は映像作家として名を馳せるようになり、栄光をつかみかけます。
だがしかし・・・
というストーリーです。
鳴瀬ははたして善人なのか、悪人なのか?
いや、彼は善悪の範を越えた存在なのだと思います。
作品を作ることに命をかけていて、その作品を認めさせるために自分の全存在をかけている。
それは、適度に社会に迎合し、適度に消費している自分たちにとっては異様にうつる。でも異様だけど、いや異様だからこそ、とても魅力的にも見えるんですね。
でも、凡才の消費者は、とても飽きっぽくもある。とても残酷に。そして変な倫理観も突如として発動したりする。
そう、独裁者は最後には一兵卒に刺されたりするんですよね。
独裁者・鳴瀬は、最後どうなるのか?
フェードアウトしてしまうのか?それとも・・・
ぜひ確かめてみて下さい。
「独裁者グラナダ」、ページ数は少ないですが、さまざまなメッセージが織り込まれた、重層的な作品です。
特に、「普通の」人間の残酷さについて、読んでいてグサッとくる。
お前はどうなんだ?と問われているみたいで。
でも、大きな才能はその「普通」の人を変える力を持っている。
鳴瀬との出会いが中田を変えたように。
この「独裁者グラナダ」との出会いが、読んだ人にとって少しでも「それまで当然と思っていたことが実はそうではなかった」という気付きのきっかけになればいいな。
と思いました。
もう1本の収録作「Birthday」。
これは、男子高校生が主人公。けがをして入院した病院で出会った男子との友情の物語です。
ほんの少しだけBL的な要素があります。掲載誌がJuneということもあるので。
夜中、学校の屋上から転落して大怪我をした男子高校生小山隆。
そこで、病院の主のようになっている同い年の男子、黒沢誠(クロちゃん)と出会います。
家庭に問題のある小山と違って、クロちゃんはおぼっちゃん。
本来なら全く別世界の人間のはずなのに、同じ病院にいる間に心を通わせていきます。
その後、次第に回復していく小山と対照的に全く良くなる気配のないクロちゃん。
そして退院する小山。2人の関係はどうなるのか・・・というお話。
難病ものです。難病もの、世の中にたくさんあります。
簡単にお涙頂戴できますからね。
世の中に蔓延しているそういうの嫌い。大嫌い。薄っぺらいの。
で、この「Birthday」はどうかというと。
「死」は確かに大きなテーマです。
でも、死そのものについては大仰には描かれていません。
だから、感動して滂沱の涙で前が見えない、ということはない。
メインのテーマは、やはり人間と人間の出会いが、人をどう変えていくか、ということ。
すごく前向きなメッセージです。
・・・ということで、「独裁者グラナダ」に収録されている2作品の簡単な紹介でした。
文章下手でほんとにもどかしいのですが、どちらも傑作です!
杉本作品はどれも、ご都合主義的な展開とかはなくて、人間の強さと弱さを同時に描くんですね。ファンタジウムの良くんは、天性の才能と、先天的な障害を同時に持っている少年だし、アマイタマシイの熊谷シェフも天才だけど言動はいろいろと問題ありの人物。グラナダの鳴瀬もそう。
そして、大衆は、現実は、彼らの欠点に対して容赦がない。
何度も打ちのめされます。
でも、それでも、自分の全存在をかけて、何度でも立ち上がるんですね。彼らは。
だから、登場人物に対して倫理的であることを要求する読者は、感情移入できないかもしれない。
でも、その倫理観はそんなに大切なものですか?
杉本作品では、最初は卑小な倫理観にとらわれていた平凡な人物が、そうした枠組みを越えた破格の才能に出会うことで、自分の価値観が大きく変わる様も描いています。
杉本作品は、読む人の心の殻を破る力を持っていると思います。
杉本作品、未読の人は、無料ですし試しに読んでみて下さい。
http://www.j-comi.jp/book/comic/45371
そして、興味を持ってくれたら、ぜひファンタジウムを!!