恵比寿ガーデンプレイスの東京都写真美術館で須田一政さんの個展「凪の片」が9月から開催されていて、ようやく行くことができました。
須田一政さんは、ご存命の写真家さんの中ではいちばん好きかも。杉本博司さんも大好きだけど、須田一政さんの作品は魅力的ですねー。心惹かれる。
今回の展覧会、1960年代の初期作品から近年の作品まで、数十年に及ぶ作品が並んだ、回顧展になっています。
会場に入ると、おびただしい数の白黒写真が居並んでいて、空気の圧を感じました。
展示されていた約200枚の写真、ほぼ全部白黒の銀塩写真。
とても素晴らしかったです。圧巻でした。
展示されている写真を1枚1枚観ながら、なんで須田一政さんの写真に心惹かれるのか、考えてました。
須田一政さんの写真の良さって、説明がとても難しい。
「対象物への暖かい眼差し」というのではないし、逆に「記録者としての冷徹な眼差し」というのも違うし、「荒々しい心象風景」でもないし、「静謐な世界観を切り取った」というのでもないし。
写真作品に使われる紋切り型の批評文が全く通用しない。
じゃあ、どう説明したらいいんだろ?とずっと考えてて。
うまくいくか分からないけど、ひとつの喩えとして、須田一政の写真は、薔薇のようである、というのはどうだろうか。
薔薇の花って、とても美しくて、「完璧な美」、なんだけど、どこか不吉なんですよね。
刺もあるし。
須田一政さんの写した風景は、日常風景が日常風景じゃないみたいに美的なものに昇華されている。すごく美しいのです。そして、その美しさが見る人を不安にさせるんですよね。
須田一政さんのとてもきれいな写真を観ていると、なぜだか心のなかにもやもややうずうずが溜まっていく。
耽美的、というのとも違う。儚げ、というのも違う。
なんとも形容しがたい感情が心を支配するのです。
不思議な作品世界です。
今は写真の世界はデジタルカメラで撮影してPCでレタッチして、隅々までピンの合った異常に巨大な世界を写したものであったり、また逆にローファイな茫洋とした世界を写したものだったりしていますが、白黒の銀塩写真のもつ緊張感って、やっぱり素敵。
須田一政さんの写真、やっぱり魅力的でした。
展覧会の最後に展示されていた近年作もよかったし。