綿矢りささん、金原ひとみさん、芥川賞受賞おめでとうございます!
・・・というわけで、「坊ちゃん文学賞」大賞を受賞した浅井柑さんについて書きます。
「坊ちゃん文学賞」は、夏目漱石「坊ちゃん」の舞台となった松山市が主催する
「まったく新しい青春文学の創造を目指して創った新人作家の登竜門」
(「坊ちゃん文学賞」公式サイトより)
で、地方自治体メセナ活動としてはかなり実績のある賞です。
大賞の賞金は200万円。
受賞作で一番有名なのは、田中麗奈主演で映画化もされた「がんばっていきまっしょい」
(第4回大賞)かな。
他の文学賞と比較して、実績のあるプロもしくはセミプロよりも、ど素人、
とりわけ女子高生が受賞する確率が高いのが特徴でしたが、今回久方ぶりに
17歳の女子高生が大賞を受賞したとの新聞記事を読んで期待していました。
そして芥川賞発表の前日、1月14日発売の「ダカーポ」に講評と大賞受賞作
「三度目の正直」が載っているのを見て、速攻買いました。
性同一性障害に悩む女子高校生、生田なな子と、幼馴染みの川島功平の
微妙な関係を軸に、なな子が恋してしまう古山琴音、功平の彼女の湯本しおり、
ネットのレズビアンサイトでなな子にアドバイスをくれるHN「きりん」たちを絡めて、
なな子と功平の心の成長を描いたストーリーでした。
まず、「浅井柑」というペンネームが良いです。
綿矢りさ(本名・山田梨沙)さんや金原ひとみ(本名同じ)さんに比べて
肩に力が入った感じが対照的で。
そして作品のタイトル。
「蹴りたい背中」「蛇にピアス」vs「三度目の正直」。
芥川賞グループのタイトルは、うまいなぁというか、ちょっとあざといです。正直。
それに対して、浅井柑さんのタイトルは味も素っ気もなくて、素晴らしい。
題材も「メンヘル」「セックスとジェンダー」「インターネット」という、
いかにも「ウケる小説」のモチーフを扱っていながら、読者サービスは一切なし。
主人公の女の子はきっぱり「女子高生独特の明るさ・華やかさというものが見あたらない」し、
レトリック上の遊びとか、感情移入しやすい人物造形とか、そういう要素は
一切考えずに性同一性障害というテーマとひたすら格闘している。
そういった青臭い、肩の力がぜんぜん抜けてない感じは、けっこう嫌いじゃない。
少なくとも、いかにもな設定で少女漫画の上澄みをすくったような作品
(よくあるんだ、これが)よりはなんぼかまし。
とはいえ、「三度目の正直」、まだいろんな部分で「彫りこみ」が
ちょっと足りないと思います。
特に、主人公のなな子をピッチャーとすると、キャッチャーである功平の内面が弱い。
「きりん」の正体とラストにかけての展開も、無理がある。
文章も、ちょっと生硬い。
でも、それでよいのだ。半端な手練れよりはずっといい。
次回作を楽しみにしています。