クラシックで新鮮 サスペンダー
昨年暮れ、ある企業を見学しに行った。実はこの連載を続けるにあたり、いわゆるサラリーマンの仕事着を実際に観察するのが目的だった。
私にとって驚きであり、うれしくもあったのが、サスペンダー姿の社員を数人見かけたことだった。
真冬とはいえ、暖房のきいた社内ではシャツ姿が多い。その中で、サスペンダー姿は新鮮だった。特別に目立つ色や柄の物ではなく、またそれだからさりげなく、好印象を受けたのだ。
20世紀の最初のころまでは、ズボンにベルト通しがなかったという。サスペンダーが日常的に使われていたからで、夜の礼装には白だった。昼間は丈夫なベルトをして働いた労働者も、めかす時にはサスペンダーが欠かせなかった。
その後、ベルトを使う人も増えていったが、少なくとも30年くらい前までのイギリスでは、三つぞろいにサスペンダーは常識だったようだ。ベストの前からベルトのバックルが見えたら、紳士の面目は丸つぶれと考えられてもいた。
それほどに、男の装いに定着し、ズボンを美しくつるという役目もあったサスペンダーが影を潜めてしまったのはもったいない。
サスペンダーは時にはかわいらしさやおどけた表情をも作る。だぶだぶのズボンをサスペンダーでつり、蝶(ちょう)ネクタイという格好はピエロの衣装の典型だ。
実際に使う場合、ウエストはぴったりし過ぎても、大き過ぎてもおかしい。適度な余裕が必要だ。
ごく普通の背広スタイルと思っていた人が、上着を脱いだらサスペンダー姿。ほのかにクラシックな雰囲気も漂って、意外性が新鮮だ。
・・・・・え、そうなの?
ていうか、「サスペンダー=ピエロ」って、自分で書いてるけど、それはいいのか?